FinOpsとは?クラウドコスト管理の新しいアプローチ
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毎月のクラウド請求書を見て「今月もこんなに費用がかかっているのか……」とため息をついた経験はありませんか?
あるいは、財務部門から「このコスト増加の理由を説明してほしい」と問われ、複雑な明細と格闘したことはないでしょうか?
本コラムでは、このような問題を解決する新たなアプローチ「FinOps(フィンオプス)」について解説します。
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<執筆者> 中村 利一 Nakamura Toshikazu
ビジネスインフラ技術本部 システム基盤技術統括部 事業推進部
2024年からクラウドFinOpsの立ち上げ準備に携わり、FinOps Certified Practitionerを取得。
現在は、クラウドコストの可視化や最適化を通じたビジネス価値最大化の支援活動を行っている。
プライベートでは散歩が趣味で、1日に最高18km歩いたこともある。
FinOpsとは?
クラウドサービスは、企業の成長を加速させる強力なエンジンです。
90%以上の組織がクラウドを利用し、60%が主要なワークロードをクラウドで実行しているというデータもあります。
しかし、その一方で「俊敏性(スピード)」を優先してアクセルを踏み込むと、コストが「制御不能」になってしまいます。
逆に「統制」を優先すれば、イノベーションは「停滞」してしまいます。
この課題の解決策が「FinOps(フィンオプス)」です。
- 「Finance(財務)」と「DevOps(開発・運用)」を組み合わせた造語です。
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財務(ファイナンス)、開発(エンジニア)、運用(オペレーション)の各部門が、これまで存在していた「壁」を取り払い、
一体となってクラウドコストを最適化していこうという取り組みです。
FinOpsの真の目的は、単なる「コスト削減」ではありません。
クラウド投資に対する「ビジネス価値の最大化」こそがゴールなのです。
- クラウドコストの可視化 : 誰が、何のために、いくら使っているかを明らかにする
- 効率的なリソース使用 : 必要な場所に必要な分だけリソースを配分する
- ビジネス価値の最大化 : コストとスピードのバランスを取り、競争力を高める
これらを実現するために、通知(Inform)、最適化(Optimize)、運用(Operate)というサイクルを回し続けることがFinOpsの基本概念です。
FinOps
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なぜ今、FinOpsが必要なのか?
なぜ今、FinOpsがこれほどまでに必要とされているのでしょうか?
その背景には、切実なデータと現場の課題があります。
増え続ける「クラウド支出」
2025年までに企業のIT支出の51%がクラウドへ移行すると予測されています(参考:Gartner社のプレスリリース)。
支出規模の拡大に伴い、管理の不備が経営に与えるインパクトは無視できないレベルに達しています。
「見えないコスト」と「Excel集計」の限界
多くの現場では、請求書をExcelなどを使って手作業で集計することに限界を感じています。
分単位で変動するクラウドコストは月次の手作業では追いきれず、結果としてコストが「ブラックボックス化」しています。
日本でも加速する「FinOps導入」の動き
世界のトップ企業であるフォーチュン50企業の96%がすでにFinOpsを採用しています。
日本でもデジタル庁が2026年2月に「継続的運用経費削減(FinOps)ガイド」を公開するなど、国レベルでの推進が始まりました。
円安の影響もあり、FinOpsは日本企業にとっても必須の常識となりつつあります。
コストを「他人事」とする文化から脱却し、「家計管理」のように自らコントロールする意識を持つこと。
これがFinOpsの第一歩です。
FinOps導入の3つのメリット
FinOpsは単なる「節約」以上の価値を提供します。
具体的に、組織が得られる3つの主要なメリットを見てみましょう。
コストの見える化による「経営判断の迅速化」
最大のメリットは、ブラックボックス化していたコストがリアルタイムで見える ようになることです。
AWSやAzureなどのIaaSに加え、大企業では100以上の利用があると言われるSaaSコストを含めた全体像を把握できます。
どのチームが何に投資しているかが明確になるため、経営層は投資対効果(ROI)に基づいた迅速な判断が可能になります。
リソース最適化による「無駄の排除」
可視化により、開発環境での放置リソースや過剰なスペックといった「無駄」が明らかになります。
FinOpsの実践により、平均して20〜30%のクラウド支出削減 が可能というデータもあります。
浮いた予算を新規開発や人材採用へ再投資することで、「攻め」のビジネス運営が実現します。
エンジニアと財務部門の「壁をなくす」
FinOpsはエンジニアと財務部門の間にあった「壁」を取り払います。
共通のコストデータを言語として対話することで、エンジニアはコックピットで燃費計を見るように自律的にコストをコントロールできるようになります。
全員がコストに対する責任とオーナーシップを持つ文化、それこそがFinOpsがもたらす最大の成果です。
FinOps実践の3つのステップ
では、実際に現場ではどのように動けばよいのでしょうか?
FinOpsの実践は、一度きりのプロジェクトではありません。
「Inform(可視化)」「Optimize(最適化)」「Operate(運用)」という3つのフェーズを、終わりのないサイクルとして回し続ける活動です。
STEP1: Inform(可視化・理解)
まずは「現状を知る」ことから始まります。
ブラックボックス化したコストを可視化し、「誰が」「何のために」使っているかを特定 します。
マルチクラウドやSaaSのコストデータを一元的に収集し、タグ付けなどで担当チームに割り当てることで、家計簿のように支出の実態を正確に把握します。
STEP2: Optimize(最適化)
次に、パフォーマンスを維持しながら「無駄」を省きます。
不要なリソースの削除やサイズ適正化を行う「使用量の最適化」と、割引プラン(RIやSavings Plans)を活用する「レートの最適化」の2つのアプローチがあります。
単に利用を制限するのではなく、データに基づいて賢く使うことが重要です。
STEP3: Operate(運用・継続的改善)
最後は、これらを「組織文化」として定着 させます。
コスト削減アクションの自動化や、チャットツールを通じた日常的な情報共有により、エンジニアが開発プロセスの中で自然とコストを意識し、自律的にコントロールできる体制を構築します。
FinOps実践の3つのステップ
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FinOps導入時の課題と解決策
「なるほど、やるべきことはわかった。よし、明日から実践だ!」と意気込みたいところですが、実はここからが正念場です。
FinOpsを導入しようとすると、ツールや技術の問題以前に「組織」や「人」の壁が立ちはだかることが少なくありません。
ここでは、多くの企業が直面する3つの課題と解決策を解説します。
財務部門と開発部門の協力体制構築の難しさ
エンジニアは「技術」を、財務は「予算」を重視するため、会話がかみ合いません。
さらに、請求書をExcelなどを使って手作業で集計していると、現場に数字が届く頃にはすでに「過去のデータ」になってしまい、現状に基づいた協力が難しくなります。
- 手作業のExcel集計をやめ、全員が「同じダッシュボード」を見られるようにします。
- 常に最新のデータを共有する ことで認識のズレをなくし、事実に基づいたスムーズな会話を実現します。
現場志向のリーダーシップの重要性
トップダウンで削減を強いるだけでは、現場の反発を招きイノベーションを停滞させます。
実際にコスト発生のトリガーを引いているのは、現場のエンジニアだからです。
- リーダーに必要なのは「管理」ではなく「支援」です。
- エンジニアが自律的にコスト効率を判断できるよう、適切なツールやガイドラインを整備する 環境作りが求められます。
従来のコスト管理意識の克服
「コスト管理は誰かの仕事」という「他人事文化」こそが、支出が制御不能になる根本原因です。
意識が変わらなければ、どんなツールも効果を発揮しません。
- コストの「自分事化」を促します。
- 日々の開発でコストを可視化し、コスト効率の追求をエンジニアの「スキル」や「成果」として評価する 文化を育てましょう。
FinOpsの成功を支えるツール
文化を変えるには精神論だけでなく、それを支える「武器(ツール)」が不可欠です。
もちろん、各クラウドサービスにもコスト管理をするためのサービスは備わっています。
しかし、それらはあくまで個別のプラットフォームに閉じたものであり、複数のクラウドを利用する「マルチクラウド」の環境になると、全体を横断した管理ができず機能しません。
そこで、マルチクラウドに対応したFinOpsの実践を効率化するツールとして、クラウドコスト管理ツール「Vantage(ヴァンテージ)」 が誕生しました。
従来のツールが管理部門のための「監視カメラ」だったのに対し、Vantageはエンジニアが自らシステムを操縦するための「コックピット」です。
エンジニア自身が開発したこのツールは、AWSなどのクラウド基盤に加え、Datadog、Snowflake、OpenAIといった従量課金型SaaSのコストも一元管理できる点が大きな特徴です。
複雑な集計作業をなくし、すべてのコストを単一の画面で直感的に把握できます。
また、分析をアクションに繋げるための機能も充実しています。
- AIが提案するコスト削減案を承認するだけで、リソースの削除やサイズ変更を自動的に実行し、
分析から修正までの手間をゼロにできる「Autopilot(自動最適化)」 - チャットツールで「コスト急増の原因は?」と問いかけるだけで即座に回答を得られる「生成AIとの連携」
など、開発のフローを止めずにコスト意識を持てる環境を提供します。
FinOpsプラットフォーム「Vantage」
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今日から始めるFinOps
ここまで、FinOpsの基本的な概念から実践フレームワーク、そして組織の壁を乗り越えるためのツール「Vantage」について解説してきました。
テクノロジーの進化は速く、クラウドやAIの活用はもはや「選択肢」ではなく「必須科目」です。
しかし、その強力なエンジンの燃料である「コスト」を制御できなければ、企業はいつかガス欠を起こしてしまいます。
FinOpsは、単なるコスト削減プロジェクトではありません。
「コストと引き換えに、どれだけのビジネス価値を生み出したか」を問い続け、エンジニア、財務、経営層が一体となってクラウド投資を最適化する「文化」そのものです。
まずは、自社のコスト管理状況をチェックしてみてください。
- 毎月のクラウド請求書の内訳を即座に説明できますか?
- 請求書を手作業で集計する作業に、毎月何時間費やしていますか?
- AWS以外のSaaSコスト(DatadogやOpenAIなど)も把握できていますか?
もし一つでも答えに詰まるなら、それは「可視化(Inform)」が不足しているサインです。
まずはFinOpsの第一歩として、可視化から始めてみませんか?
もし何かご相談などあれば、ぜひお気軽にお声がけください。
参考
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2026年1月20日付で「Vantage」の提供を開始しました。 |
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