TOP>セミナー/イベント>開催報告>交渉とは、『競争』ではなく『協創』である~ショートケースで実践!IT業界における交渉術~

交渉とは、『競争』ではなく『協創』である
~ショートケースで実践!IT業界における交渉術~

「ショートケースで実践!IT業界における交渉術」


顧客との価格交渉・仕様検討、社内調整など、あらゆるビジネスの場で「交渉」は欠かせません。そもそも交渉とは何でしょうか。相手を打ち負かすこと?合理的なロジックをもとに、双方がWin-Winとなるテクニックはあるのでしょうか。ソリューション研究会 情報交流会では、人材育成支援サービスなどを手がける株式会社スプリングボード 足立晋平様を講師に迎え、演習を交えて交渉術を学ぶ、『IT業界における交渉術』セミナーを開催しました。

株式会社スプリングボード 代表取締役 足立晋平氏

京都産業大学全学共通教育センター非常勤講師

コンサルティングサービス、人材育成支援サービス、生産性を向上させるためのキュレーションサービス等を提供。


交渉とは?


交渉というと、相手を言い負かして自分の要求を通すこと、といったイメージを持たれる方も多く、交渉が好きか嫌いかと聞かれると多くの人はどちらかというと苦手、だからこの情報交流会に参加したという方もいると思います。今回ご紹介する交渉術は、「ハーバード流交渉術」を基本的な考え方としています。

交渉は、ビジネスの場面における顧客とのやりとりや、社内でも部門間や上司部下間、またプライベートでは家族、友人との間で行われる日常生活で欠かせないもの。では、まず交渉という言葉の定義はなんでしょうか。正解があるわけではありませんが、定義によって交渉のやり方が変わります。例えば、交渉は「妥協」であると考えていれば、交渉相手との妥協点を探す行動をとりがちになり、「お互いにゴールを探すもの」ととらえていれば、双方のゴールを探すことを目指すでしょう。

ハーバード流交渉術では交渉をこう定義しています。
「相手と利害を調整し、相手と自分の双方が利益を分かち合える合意に達するための相互コミュニケーションである」(ウィリアム・ユーリー)
今回のセミナーはこの考えをベースにして進めていきます。

駆け引き型交渉


ユーリー氏は交渉を大きく2つに分けています。一つは駆け引き型交渉で、交渉当事者双方が、それぞれの立場をとり、どちらかが勝つまで、または妥協するまで論争を続けるというもの。さらに駆け引き型は、交渉目標を「同意を目指す」とするソフト型と「勝利を目指す」ハード型の2つに分けられます。例えば家電販売店で製品を予算以内で手に入れたいといった短期的な交渉なら、勝利を目指すことも良いかもしれません。でも社内での調整業務などでこの交渉スタイルをとり続ければ、刹那の勝利は得られても長期的な人間関係を考えるとデメリットも大きいでしょう。交渉は相手を倒すことが目的ではありません。相手を打ち負かすのではなく別の道を、というのが「原則立脚型交渉」です。

講演風景


原則立脚型交渉


原則立脚型交渉の目標は、双方がメリットを得られるWin-Winを目指すこと。そのために「問題解決者」として交渉に臨み、双方の立場ではなく「利害」に焦点を合わせます。原則に基づき、対立を超える第三案を交渉当事者同士が共に考えて合意を目指すのがこのやり方です。

ステップ その1 利害を整理


共通の問題に対して、相手から出される「~したい」という主張は相手の「立場」で、その裏にあるのが「利害」、つまり相手が本当に手に入れたいもの、失いたくないものです。お互い自分の立場に固執すると見えなくなってしまうことが多いのですが、着目すべきは「利害」です。対立するもの、共通するもの、そして双方で異なる利害がありますが、共通するものから仮説を立てていきます。また相手に対して、「なぜこの点が重要なのですか?」「何が一番の問題なのでしょうか?」「どのような点を重視されますか?」といった質問を通して利害を確認するのもよい方法です。

ステップ その2 オプションを創造


利害を満たす、すなわち合意の可能性のある案(オプション)を考え出します。先入観にとらわれず、双方に有益な選択肢をできるだけ多く出し合います。ブレインストーミングを有効活用するのもよいでしょう。その時はアイデアを否定することなく思いつくまま出し合い、発散しつくしてから収束(まとめ)に移っていきます。

ステップ その3 優位に立つ


ハーバード流交渉術では、優位に立つためにBATNA: Best Alternative to a Negotiated Agreementを開発します。交渉において自分の利害を満たすような合意に達しない場合、その交渉に代わる最良の代替策を考えておくのです。交渉が決裂した時を想定し、いくつかの対処策を用意し、そのうち見込みのある案を具体的、実際的なものにしていきます。さらにその中で最良と思われる案を選び、また相手のBATNAも考慮します。BATNAがあると心の余裕ができ、またBATNAそのものが交渉力となるからです。

ステップ その4 提示案を交換する


オプションの中から相手が合意可能な最良の案を作成します。自分にとって最高の案、受け入れられるぎりぎりの案、一応満足できる案を作り、自分の最高の提示案に近づけ、かつ、相手の利害を満たすオプションを検討します。こうして作られた提示案を、市場価格や先例、公平性などできるだけ客観的な基準を用いて交換し、交渉のまとめに入ります。その際、相手の利害にアピールする価値を中心に話すことが大切です。提示案の交換にあたり注意することは「アンカリング効果」。これは提示された特定の数値や情報が印象に残って基準点(アンカー)となり、判断に影響を及ぼす心理傾向のことです。相手からの提示案を考慮するときはアンカリング効果の可能性を念頭におき、こちらから提示する時にはそれを活用するとよいでしょう。

演習は「キャンセル料をめぐる交渉」


セミナーでは次のケースを想定して演習を行いました。

『製薬会社がSIerと結んだコールセンター構築契約が、プロジェクトの遅れと業績不透明から役員の指示でキャンセル。すでに費用が発生しているSIer側は10%のキャンセル料を取りたいが注文時にキャンセル料について伝えることを忘れていた。SIerはキャンセル料を請求したいが、それ以外のビジネス、また今後の取引への影響が心配。製薬会社は自社のプロジェクトの遅延によるものでキャンセルは申し訳ない思いもあるが経営層の指示には逆らえない。でも支払いサイクルの長さのためSIerに対して多額の買掛金もある・・・』

参加者は、SIerと製薬会社のふた手に分かれて講習の前後に演習を行いました。交渉は競争や勝ち負けではない、合意の選択肢を考えて友好的かつ効率的によりよい結果を共に創造し、双方の利益を最大化する、といった講義での内容をふまえて行った演習の後では、「交渉は苦手」、と最初に手を挙げた参加者の方々も、満足のいく交渉ができたと回答されていました。

講演の様子


※足立氏による当セミナーは福岡ユーザ会でも開催されました。

ページの先頭へ戻る