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ソリューション研究会 情報交流会(東京地区)
「BEソーシャル!~透明性の時代、ビジネスはいかにシフトするか?~」

アシストのユーザ会、ソリューション研究会の「情報交流会」では、ソーシャルメディアのビジネス活用における第一人者として認知されている、株式会社ループス・コミュニケーションズの斉藤徹氏を講師にお招きし、透明な時代におけるあるべき企業像についてお話しいただきました。

講師プロフィール

斉藤 徹(Saito Toru)
株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表取締役

1985年 日本IBM株式会社入社
1991年 株式会社フレックスファームを創業
2004年 同社株式を売却
2005年 株式会社ループス・コミュニケーションズを創業

現在、同社にてソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を展開。
『ソーシャルシフト』、『BEソーシャル!』など、著書多数。

Facebook:@toru.saito
Twitter:toru_saito


 ソーシャルメディアという言葉が広く使われるようになったのは2007年頃からで、FacebookやTwitterなどをいかに活用するかという観点でしたが、昨今、より本質的な問題が出てきました。それは生活者がソーシャルメディアを通して力を持つようになり、常に情報交換をして企業を選別するようになったためです。また社員も情報交換により力を持ち、中央統制のマネジメントスタイルが通用せず、何かあればすぐに広まる、嘘のつけない世界になってきました。これにより、今までのようにお金をかけて広告でブランドイメージを作り、実物よりうまく見せることができない時代になってきたのです。

歩く広告塔


 ソーシャルメディアでは、お客様の体験、つまり顧客接点が投稿され、それが広告としてソーシャルメディア中を駆け巡っています。様々な瞬間が切り取られてソーシャルメディア上で拡散する、言い換えるとお客様接点は広告の生まれる瞬間でもあるのです。投稿されるのは日常のすべてではなく印象に残ったこと。企業においては事前期待を大きく上回るか、下回った時に投稿がされ、お客様は歩く広告塔になるのです。期待を上回れば世界中に広がり、逆に失望させると大変な痛手となり、もはや一方的な企業側の論理は通用しません。自社利益だけを優先してユーザや社会を軽視すれば、トップ・シェアの企業であろうと、むしろトップ・シェアの企業に対してこそ風当たりは1番強くなります。

 社員も同じです。内部の人間によるソーシャルメディアへの心ない投稿が度々ニュースになっています。社員なら制限できると思われるかもしれませんが、退職した社員や休職して戻れなかった社員まで含め、悪意のある投稿をしないと確信が持てるでしょうか。たった1人の社員の悪意で企業が倒産に追い込まれかねない時代。顧客だけではなく社員をも幸せにする企業にならなければいけないのです。

アメとムチによる統制はマイナス


 2005年、16ヵ国の中規模/大規模企業の社員8.6万人を対象に行ったアンケートで、「仕事に積極的に参加している」と答えた社員はわずか14%だったという調査結果があります(タワーズ・ペリン社調べ)。社員がやる気を失くす背景には科学的管理法といわれる統制型のマネジメントがあります。100年前にフォードが流れ作業で取り入れた手法で、これによって生産性は5倍上がりました。しかし流れ作業のような業務では社員を機械のように管理する方法は有効でしたが、現在は人間でないとできない創造的/発見的な仕事が70%を占めています。そのような仕事にはアメとムチによる統制はマイナスで、外発的な動機付けをするよりも社員自らが仕事がしたい、こういうふうに会社に貢献したい、と思うような内発的な動機付けで動かしていくことが重要です。

利益至上主義は短命


 最大規模の企業の平均寿命は40年弱と言われています。1970年の世界のトップ企業500社は、13年後にはM&Aも含めると3分の1が消滅していたという調査結果もあります(1983年ロイヤル・ダッチ・シェル社調べ)。利益至上主義に走る企業の寿命は意外と短いのです。

 その一方で200年以上続いている企業の56%が日本にあります。日本企業の長寿性の根幹にあるのは、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」です。ただし、日本の企業にも「滅私奉公」という、根深い問題があります。「過労死」は日本以外の先進国ではほとんどありません。「三方よし」の中に社員が含まれないのが日本企業の寂しいところです。滅私奉公による優れた顧客サービスから脱却し、社員も幸せになる経営へシフトしなければなりません。

透明な時代に求められる正直者の経営


図1:アウトサイドインの経営モデルの例

 一般的な企業の経営モデルは、まず志があり、貢献するものがあり、結果として商売になっているにも関わらず、事業成果の最大化を一番の目的とします。これがアウトサイドインの経営モデル(図1)です。「儲けてやろう」的な経営、株主だけがハッピーで、お客様も社員もハッピーではないこの経営は、ソーシャルメディア時代にはリスキーな経営モデルです。これをひっくり返しインサイドアウト(図2)にすることが重要です。

図2:インサイドアウトの経営モデル

 インサイドアウトの経営は、内側にブランド哲学があり、それに従って社員/組織/情報共有の仕組みがあり、その上にビジネスモデルが成り立っています。結果としてお客様に価値を提供し、事業成果が上がる。今の透明な時代に求められるのはこの経営です。

 これまで、社員の幸せを含む「三方よし」のインサイドアウトのモデルを徹底している企業は、立派な創業者がカリスマ性で強く引っ張ることで存在してきました。現実の多くの企業が目指すべきは、立派な創業者がいなくてもシステムとして「三方よし」が継続する経営です。

「三方よし」の経営システム


 「三方よし」の経営システムを5つの層で考えます。

①ブランド哲学


ミッション、ビジョン、コアバリューの3つに分かれます。例えば、Wow!体験で有名なザッポスでは次のようになります。

・ミッション(使命、存在価値):幸せをお届けする
・ビジョン(将来なりたい像):最高のサービス・カンパニー
・コアバリュー(社員が共有すべき価値観):謙虚であれ、他、社員100人が1年かけて作り上げた10個の行動指針

②組織


一般的な規律型組織では、情報は不透明で意識は上司に向かっています。自立型組織は、情報が透明で社員一人ひとりが動き、意識はお客様に向いています。しかし、社員は自分の会社が好きでないと動きません。企業は社員の欲求を正しく把握し、ピラミッドの下から順に誠実に積み上げていくことが重要です(図3)。ピラミッドの下2段は、満たされなければ不満足ですが、満たされても満足になるわけではありません。高額のボーナスを貰えば会社を好きになるというわけではなく、一瞬好きになってもすぐに冷めます。会社を好きになるには上3段が満たされる必要があります。

図3:社員協働のピラミッド

③ビジネスモデル


ビジネスモデルは企業で異なりますが、ここで大切なことは自社の利益だけを追求する株主資本主義の考え方ではなく、社会の課題に対して企業があるという意識で両者の共通価値を設定するCSV(Creating Shared Value)の考え方を取り入れることです。CSR(Corporate Social Responsibility)との違いは、CSRは本業以外で社会貢献をすること、CSVは本業で社会貢献をすることで、CSVがしっかりしていないと長寿にはならない上に、ソーシャルメディア時代には嫌われます。

④顧客経験価値


お客様へ提供する経験価値は、顧客の欲求を正しく把握し、ピラミッドの下から順に誠実に積み上げていきます(図4)。図はザッポスの例ですが、有名なWow!体験は一番上に位置します。同社は創業から5年間は下2段、機能価値の積み上げに集中し、充分なレベルになった後に3段目以降の情緒価値に進みました。ベースがあってこそのWow!体験です。ソーシャルメディア時代には、情緒価値が素晴らしいと投稿されます。

図4:顧客経験価値のピラミッド

⑤事業成果


こうして結果としてもたらされる事業の成果は、財務の視点、学習/成長の視点、業務プロセスの視点、顧客の視点別に、バランススコアカードによる評価を行っていきます。


 以上の5つのことに注意を払い、情報を全社員で共有すれば、スーパー経営者や大番頭は必要ありません。上から「自分で考えて動け」と言うだけでは、社員は経営者感覚は持てませんが、権限委譲され、意思決定するための情報が提供されれば、社員は自分の会社が好きになり、経営者に近い感覚で動き出すのです。

社員にもお客様にも優しい、持続可能な経営


 利益至上主義は論外ですが、社員至上主義/顧客至上主義で倒産した企業も数多くあります。なぜなら「経営は回り続けるコマの如く」でなければならず、○○至上主義はコマのバランスを崩すからです。コマが常に動いているかを全社員で見て支え合う経営哲学、企業哲学を持ち、顧客との約束を貫く姿勢を示せば、顧客も社員もそのブランドを愛するようになるのです。社員にもお客様にも優しい、持続可能な経営にシフトすること、それがソーシャルメディア時代に求められる経営なのです。

ソリューション研究会とは

株式会社アシストでは、お客様主体のユーザ会である「ソリューション研究会」を運営しています。ソリューション研究会は、アシストの提供するソフトウェアおよび各種サービスをご利用いただいているお客様相互の交流を育む場として、日頃お客様が抱えておられる課題や疑問をお客様同士で討議し、意見交換を行っていただくことを目的に活動しています。ソリューション研究会は、定例会・情報交流会・分科会の3つの活動で成り立っています。

<情報交流会とは・・・>
会員相互の交流を目的にした、セミナーまたはサロン形式の会合として、年に一度開催されます。最新の情報技術動向やIT業界情報だけでなく、経済や社会問題など幅広いテーマを取り上げてご懇談いただいています。

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