TOP>セミナー/イベント>開催報告>ソリューション研究会 定例会「お客さま密着!で地域に貢献する十勝バスの取り組み」~40年ぶりの利用者増加の実例~

ソリューション研究会 定例会
「お客さま密着!で地域に貢献する十勝バスの取り組み」
~40年ぶりの利用者増加の実例~

ソリューション研究会 定例会


全国的に路線バスの経営が厳しいと言われる中、「5年連続増収」という快挙を成し遂げた十勝バス株式会社(以下、十勝バス)。前例のない地方バス会社再生の物語は多くのメディアに取り上げられて大きな反響を呼び、ミュージカルにもなったそうです。今回のソリューション研究会 定例会では、幾多の危機を乗り越え、十勝バスを再生に導いた立役者である代表取締役社長、野村文吾氏をお招きし、徹底した顧客ニーズの調査と営業力強化の取り組み、社員の意識改革に至る過程で見えてきた大切なことについてお話しいただきました。

ソリューション研究会とは

野村文吾様

野村 文吾氏
十勝バス株式会社 代表取締役社長


1963年帯広市生まれ。函館ラ・サール高、小樽商科大を卒業後、国土計画(現西武ホールディングス)に入社、企画宣伝に携わった。98年、父の文彦氏が経営する十勝バスに入社、2003年から社長就任。帯広商工会議所副会頭や十勝地区バス協会会長、道東道とかち連携協議会会長など公職多数。


十勝バスの概要


今年創業90年を迎えた当社は、十勝管内1市18町村の内、1市14町村のエリアをカバーするバス会社で、メインの事業は路線バスですが、貸切部門もあります。近畿日本ツーリストのお客さま評価では日本ナンバーワンという高い評価をいただいています。

バスの他には、ジャンボタクシー部門と介護部門、それから小学校低学年の子どもたちをお預かりする学童保育所も立ち上げています。介護サービスは、「バスを長年ご利用いただいたお客様へのご恩返し」を模索したのがきっかけでした。学童保育所は、近年の日本では見られなくなった子どもたちと高齢者の多世代間交流も狙いとしています。このように当社はチャレンジングな試みを数々実践し、現在に至っています。

40年間で5分の1まで激減したバス利用者


メインの路線バス事業は1969年(昭和44年)の2,300万人をピークに利用者が年々減少し、現在では約5分の1となる400万人程度になってしまいました。この間に十勝に4社あったバス会社も、2社撤退しています。バス利用者激減の1つの理由には、モータリゼーションが挙げられます。自動車の普及という国策のもとに道路が整備され、地方都市ではマイカーが一家に2~3台となった結果、バスの利用者が減っていきました。しかし原因はそれだけでなく、バス会社が利用者減少に抜本的な対策を打ってこなかったどころか、サービスを低下させてしまった結果なのです。「利用者が減ったので、便数を減らす。その結果、お客さまサービスが低下してさらに利用者が減る。ではまた1路線減らそう・・・」といった具合にお客さまへのサービス低下を進めた結果、バス会社はモータリゼーションに対抗できなくなっていったのです。

再生に向け、やり尽くした経営合理化


利用者の減少により倒産の危機を迎えた当社は、段階的な経営合理化を実施しました。まずは資産売却をして運転資金を捻出。売れるものはすべて売り尽くしたため、当社には土地、建物といった資産はほとんどありません。そしてキャッシュアウトをできる限り先送りするため、車両更新も通常7~8年のところ、20年へと大幅に遅らせました。路線バスが1台3,000万円以上するのをご存知ですか。売上げが下がり、運転資金がなかったのですから、当然、バスを買うこともできませんでした。それらをやり尽くした後、やってはならない人件費削減に手を付け、1990年(平成2年)、ついに人件費を6割カットしたのです。運転手さんたちの血と肉である給与を削って、会社を存続してきたという経緯があります。

衝撃の「土下座事件」が私を変えた


経営合理化を進めている1998年、私は父から経営を引き継ぎました。倒産寸前の会社でしたので、風紀は乱れ、社員の士気は下がり、経営について素人だった私の熱い想いだけでは解決できない問題が山積みでした。一筋縄では行かないことばかりで途方に暮れる日々を過ごしていた矢先、会社経営をしている幼馴染に誘われ、藁をもすがる思いで経営の勉強会に参加しました。

ある日、勉強会仲間から言われた言葉に私は衝撃を受けました。「お前は社員を愛してないだろう。このままだと会社を潰すことになるぞ、社員を大切にしろ!」 。まだまだ器の小さかった当時の私は、その言葉が理解できず、とっさに彼の胸ぐらを掴んでいました。彼は大会社の社長でした。「お前はどうしたらわかってくれるんだ?」と言うので、土下座したら聞いてやると答えると「その言葉忘れるなよ」と言った瞬間に彼は土下座しました。驚きました。そこまでする理由を尋ねると「お前のことが心配なんだ。助けたいんだ」と言うのです。

その時、はっとしました。彼の本気に私の心が動いたのです。人を動かすには本気で相手と向き合わないと伝わらないということを私は彼から学びました。そしてそれを自分も部下たちに見せようと、幹部を集めてこう宣言しました。「俺は今日から変わる。皆を大切にする、愛するので、俺を見ていてくれ」と。すると部下が変わってきたのです。不思議でなりませんでした。彼の言葉は本当でした。「愛するということは、受容力をアップするということ。受け止める力を広く、強くすること」だと知りました。社員を大切にして愛すれば、良い所が次々に見えてきて、欠点や短所が気にならなくなります。長所を活かすことで、社員がどんどん成長し始めます。「社員を愛する」と宣言した途端に部下たちに変化が起きたように感じたのは、実は自分の考え、心持ちが変わったことで見え方が変わったからでした。社員を愛するという行動、つまり「個性を認める、強味を活かす」、これを実践し自分の器を大きくし受容力を高め、どんなことも冷静に包み込むように受け止めれば、ほとんどの物事は解決していきます。

野村氏


バス業界の原理原則をすべて打ち破った「戦略的な営業強化」


当社が苦境にあった時に、業界初の「営業強化」に取り組みました。路線バスの時刻表と路線図を停留所の周りの家庭を一軒一軒訪問して配ったのです。1つの停留所から始めて、成果が出たら、その隣りの停留所へ展開していくことにしました。そして「なぜバスを使っていただけないのか」と思いきってお尋ねすると「毎日バスが走っているのは知っているが、行き先や運賃がわからない」とおっしゃるのです。愕然としました。でも自分に当てはめた時、確かに知らない地域ではバスに乗る機会がぐっと減ると気づきました。行き先や乗り方がわからないと、移動の手段としてバスが選択肢に入らないのです。そこでバスの乗り方を説明したパンフレットを作って個別訪問したところ、その路線で利用者が増え始めたのです。幹部たちがどよめき立ちました。成果が出てさらに営業強化への拍車がかかりました。

取り組みは小さく始め、そのPDCAを速く回して成果を出すことがポイントです。大きな責任は荷が重くて逃げ出したくなります。小さく始める調整をしてあげると、新しいプロジェクトや事業は上手く進みます。こうして気を良くした社員たちは次々にお客さまの不安を解消する取り組みを発表してくれました。“日本初の”エリアを絞った目的別時刻表や、それを基に往復のバス運賃とバス路線上にある目的地を組み合わせた企画商品(日帰り路線パック等)を売り出すと、この商品の利用者が急増し、ついには2010年に「2,100名」だった利用者が、2015年には「5,000名」に達したのです。この利用者の内、6~7割が十勝以外のお客さまによるご利用でした。知らない地域に行ったら、絶対バスには乗らないという原理原則にも関わらず、お客さまの第1次的な目的を満たす目的地さえ提示できていれば、お客さまの不安も消え利用していただけるようになるという証にもなりました。

2008年からのこうした営業強化の取り組みが功を奏し、2011年、ついに40年ぶりに路線バスだけで前年度比の利用客数が「0.5%増」を出すことができました。高速バス、スキーバス、定期観光バス等を含めた全体では4.3%増となりました。地方のバス会社で利用客数の増加を果たしたのが全国初ということで新たな局面を迎えることになります。

さらなる営業強化の結果、国をも動かしたビジネス・モデル


利用客数のみならず収益も増収に転じたこの取り組みを当社だけにとどめておくのではなく、全国のバス会社にお伝えするべきだと強く思いました。一方、時代の進化のスピードが早くなっている昨今、当社のビジネス・モデルも、10年もつとは限りません。次なる新しいビジネス・モデルを見つけておかないと間に合いません。そのためにも、全国のバス会社と情報交換ができればという思いもありましたが、なかなか他社から相手にしていただけませんでした。国土交通省にも相談に行きましたが、当社の成功事例は特殊なケースと思われ、にわかには信じていただけませんでした。そこで私は視座を高め、「国を動かす」という、社員も呆れるようなとてつもない高い志を掲げ活動を始めました。

まずはマスメディアに働きかけました。最初は地元紙、さらに全道展開の新聞、雑誌に記事を書いていただき、それがきっかけで「日経ビジネス」で特集を組んでいただきました。それらがテレビ取材に繋がり、北海道版、全国版に取り上げられ、ミュージカルにもしていただきました。そしてバス事業者の取り組みがミュージカルに?!ということで「奇跡体験!アンビリバボー」「ガイアの夜明け」など、相乗的にメディアで取り上げていただいた結果、現在では、ほぼ1週間に1社の割合で、全国のバス事業者や企業の視察をお受けするようになりました。そして国土交通省から全国のモデルとして、当社の取り組みをご説明いただけるようになったり、さらには国の機関からいくつも表彰いただくまでになりました。

実施したことはほんのわずかですが、1つひとつ積み上げていくことによって「国を動かす」という志が「半ば」実現しつつあります。実績が必要なのですね。今では社員も「国を動かす」と言っても笑わなくなりました。

「誇り」を取り戻し、輝き出した社員たち


こうして全国的に注目され、色々な賞をいただくようになり、ふと気がつくと、当社の社員が変わっていました。お客さまから認められることによって、社員たちが輝き出してきたのです。以前は社員に「誇り」を持たせるにはどうすれば良いか悩み、各種取り組んではみたものの、全く上手くいきませんでした。なぜならば「誇り」は持たせるものではなく、取り戻させるものだったからです。自分の心の中に誰しも「誇り」を持っています。ただし、学生時代や社会人での色々な経験を通じて、嫌な思いをする度に、その誇りに雲や霞がかかり、ゴミがついたりして見えなくなってしまっているだけなのです。現に子供の時に誇りはたっぷり持っていましたよね。ですから、リーダーの皆さんは、部下たちの誇りを取り戻させるために、そこについてしまったゴミやほこりや雲を吹き飛ばしてあげたり、磨いてあげていただきたいのです。それがすなわち「個性を認めて人格を尊重して強味を活かして短所を受け止める」ことになるのだと思います。これが私の今の役割だと思っています。

やったことは、たった5つ


私が事業立て直しで取り組んだのは、単純にこの5つです。

1. 「非顧客に顧客でない理由を直接聞いた」
他社を利用している方になぜ自社を使っていただけないか、と聞けば真の理由が見えてきます。真の原因は「不便」ではなく「不安」でした。

2. 「小さく行動を開始した」
不安や恐怖心が少ない小さなスタートは、部下に仕事をさせる場合にも非常に有効です。また、PDCAが速く回り、どんどん改善を加えていけます。

3. 「バスは移動の手段であり、目的ではない」
自社の本当の価値、顧客が求めている本当の価値を提供していくべきです。バス会社の場合、本来の価値は、手段なのです。主役ではなく、脇役、つまりお手伝い役に徹した時に、お客さまに真の価値を提供できるようになりました。

4. 「知識は行動して初めて成果となる」
私も色々な勉強会に行きますが、聞いたうちの1割も実践できていません。でも1割でも実践しなければその時間は無駄になってしまいますし、持っている知識を活用しなければ、価値を産みません。是非1つでも多く実践していただきたいと思います。

5. 「新たな価値を創造しての新商品の開発」
いわゆるイノベーションが重要だと思います。当社は、お話ししたように特に新たなものは何も買っていません。90年前からあるものしか使っていません。ただし、そのあるものを組み合わせたり、あるいは組み上がっていたものを1回ばらして、角度を変えたり、違うものと組み合わせたりして、新たな価値や市場、そして顧客を創造してきました。

上記、5つの内で何か1つでも皆様の心に響くことがあれば、是非実践していただけたら幸いです。

創業100年達成企業は全体のわずか1~2%と言われます。当社も2026年に100年を迎えられるよう、今後もさらなる改善に取り組んで参ります。

ソリューション研究会とは

株式会社アシストでは、お客様主体のユーザ会である「ソリューション研究会」を運営しています。ソリューション研究会は、アシストの提供するソフトウェアおよび各種サービスをご利用いただいているお客様相互の交流を育む場として、日頃お客様が抱えておられる課題や疑問をお客様同士で討議し、意見交換を行っていただくことを目的に活動しています。ソリューション研究会は、定例会・情報交流会・分科会の3つの活動で成り立っています。

<定例会とは・・・>
年に一度、最新のIT戦略や経営、人材育成をテーマに講師をお招きし、全会員を対象とした講演会を開催しています。また、合わせて昨年度の分科会で優秀賞を受賞した分科会より、一年間の研究成果を発表いただきます。最新の情報技術トレンドや、来年度の分科会への参加をご検討している方、ぜひご参加ください。


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