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量子アニーリングを中心とした量子コンピュータ研究開発の現状と展望 ~量子コンピュータは世界をどう変えるのか?~

アシストテクニカルフォーラム2019 特別講演

東京工業大学 科学技術創成研究院 教授  西森 秀稔 氏

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今、なぜ量子コンピュータが注目されるのか

現代のコンピュータにおいて、技術的な性能限界以上に深刻なのは、エネルギー問題である。機械学習などのAIの進歩により人々の生活が豊かになる一方で、2025年にはコンピュータの消費電力が全世界の電力の5分の1に達すると言われている。また、AIが1つ学習をする時に排出するCO2の量は、新車5台が廃車になるまでに排出する量に匹敵するという。

この問題を解決する突破口のひとつとして、量子コンピュータが注目されている。既に商品化されている量子コンピュータである「D-Wave」は、消費電力がスーパーコンピュータの100分の1程度に抑えられており、さらにスーパーコンピュータでも難しい計算の高速処理に期待されている。

実用化が進む「量子アニーリング」

量子コンピュータには2つの方式がある。「ゲート模型」と「量子アニーリング」だ。

一般的に量子コンピュータは前者を指す場合が多く、現代のコンピュータの上位互換として、汎用的な処理の高速化を目的としている。現時点では、素因数分解や量子シミュレーションなどの一部の処理のみで劇的な高速化が理論的に証明されているが、実用化までには20年〜30年はかかるといわれている。

後者は組み合わせ最適化問題に特化しており、交通量や物流における配送ルートなど、効果が期待される分野は社会的影響が大きいものが多い。先の「D-Wave」のように量子アニーリング理論に基づいたマシンも商品化されており、現実の社会問題解決への応用に向けた動きも活発である。

量子コンピュータにおける高速化とは

では、なぜ量子コンピュータは高速処理が可能なのか。量子コンピュータでは、量子力学における現象を応用し内部にある超伝導リングに左右同時に流れる電流を「0」と「1」として同時表現が可能となる。この超伝導リングの状態を量子ビットとして、並列化する事で高速処理を実現する。

現代のコンピュータは、台数を増やす事により足し算でパフォーマンスが向上するが、量子コンピュータは超伝導リングを増やす(繋げる)事により掛け算(2のn乗)で向上していく。Googleが発表したところによると、現代のコンピュータと量子コンピュータで、ある特殊な処理を行ったところ、量子コンピュータが約1億倍速く処理を終えたという。

近未来の展望

現在、量子アニーリングマシンは実用化の一歩手前にあると言われ、組み合わせによる最適解の探索という観点では、交通量の最適化・工場内の機器の配置・航空機のゲート割り当て・機械学習などの応用例が想定される。コンピュータ技術は日進月歩で進化しているため、もはや5年後は近未来といっても過言ではない。

5年後には、社会や企業の課題を組み合わせ最適化問題として定式化する事で、様々な応用例が出てくる可能性がある。利用者が量子アニーリングを意識しなくても使用できるアルゴリズムやUIなどのソフトウェア面も進歩し、他の同系技術よりも注目度も高く優位性を持って発展していくだろう。


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西森 秀稔 氏 プロフィール

東京大学理学部物理学科卒業。東京大学大学院理学系研究科修了。米国カーネギーメロン大学研究員、米国ラトガース大学研究員、東京工業大学理学院教授などを経て現職。専門は量子アニーリングやスピングラスの統計力学。日本IBM科学賞、仁科記念賞、英国物理学会フェロー、日本イノベーター大賞特別賞、C&C賞などを受賞。
主な著書に『量子コンピュータが人工知能を加速する』 (日経BP)『物理数学II―フーリエ解析とラプラス解析・偏微分方程式・特殊関数』(丸善出版)『Elements of Phase Transitions and Critical Phenomena』(Oxford University Press)などがある。


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