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日本郵船のDX推進の原動力は「人の育成」と「組織文化の変革」

日本郵船のDX推進の原動力は「人の育成」と「組織文化の変革」

日本郵船では2019年から全社を挙げてデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。この活動を先頭に立って率いる同社 技術本部 執行役員 鈴木英樹氏は、「社内カルチャーの醸成」「人材の育成」という大方針の下、実に様々な施策を打ち出して成果を上げています。取り組みの実際を同氏に紹介してもらいながら、「DX成功のカギ」を皆さまと一緒に探っていきます。

DXの第一歩はデジタル活用の「カルチャー作り」から


1885年に設立された日本郵船株式会社(以下、日本郵船)は日本を代表する三大海運会社の一角を占める大手海運会社として、国内はもとより世界市場においても広く知られる存在です。同社は、中期経営計画の二本柱の一つに「デジタライゼーション」を掲げており、全社を挙げてDXの推進に注力しています。

この取り組みを先頭に立って率いているのが、技術本部 執行役員の鈴木英樹氏です。鈴木氏は、長らく営業畑を中心に数々の要職を歴任した後、2019年に新設された「デジタライゼーショングループ」のグループ長に就任。現在に至るまで日本郵船のDX推進をリードしてきました。

同氏がDX推進施策としてまず真っ先に取り組んだのが、データ分析やデジタル技術を使って現場が積極的に業務課題の解決に取り組み、社員一人一人がワクワク楽しく働けるような「カルチャー」を作ることでした。同氏によれば、日本郵船には元来データ活用を重んじる文化があったと言います。

鈴木 英樹 氏 鈴木 氏

海運業の仕事では、自然現象や国際情勢、経済情勢といった情報を収集・統合して判断を下す必要があります。そのためには、自社だけでなく外部の知見・情報の活用が必要です。
こうした背景があり、オープンイノベーションを通じたデータ活用の取り組みは元々弊社のDNAに深く刻み込まれていました。

DX推進の旗振り役を任された鈴木氏は、社内風土を生かしながら新たにデジタル活用のカルチャーを現場に根付かせるべく、矢継ぎ早に施策を打ち出していきました。

DXの一丁目一番地は「人の育成」


デジタライゼーショングループの活動を立ち上げるにあたり、真っ先に鈴木氏が打ち出したキーワードが「LESS WORLD」と「WANNA WORLD」でした。

鈴木 英樹 氏 鈴木氏

LESS WORLDとは、デジタルの力によって付加価値の少ない業務をなるべく減らす(LESS)ことを指します。これによって新たに生まれた時間を、よりクリエイティブな仕事へ充当し、社員一人一人がワクワク楽しく(WANNA)働ける場所を創る。これが私たちが目指している世界です。

そのために不可欠なのが、「人を中心とした事業運営」だと同氏は述べます。環境の変化が激しい現代において真に解決すべき課題を見つけ、適切な問いを立て、その解を導き出してイノベーションを実現するためには、人の育成が何よりも重要になります。

Mt.Fuji-prj

そこで、鈴木氏らは「Mt.Fujiプロジェクト」を立ち上げます。これは、社員が自ら主役となってDXに積極的にコミットできるよう、DXへと至る道筋を富士登山のルートに例えて表したものです。

例えば山頂付近には、リーダー人材向けのハイレベルな教育プログラム「デジタルアカデミー」を用意する一方、ふもとには一般社員向けのOffice 365アプリ研修を設けるなど、DXの世界への様々な入口を用意しました。これによってDXの裾野を広げ、できるだけ多くの社員に興味を持ってもらえる工夫を凝らしました。

「既存の仕事に対する疑問」が新たな発想へとつながる


こうした取り組みを進めていく上で、鈴木氏が最も大事にしているのが「チェンジマネジメント」です。特に、DXに取り組む社員一人一人の「ハート」「マインド」にどうやって火を付けてモチベーションを引き出すかに腐心してきたと同氏は話します。

鈴木 英樹 氏 鈴木 氏

人はやはり心が動かなければ体も動きません。
新たな取り組みを組織に根付かせるためには、人のマインドセットを変える必要があり、そのためには人々が働く組織の文化そのものを変えていかなくてはなりません。

同社が社員に奨励しているのが、「オープンマインド」と「既存の仕事に対する疑問」を持つことです。既存の業務や組織文化を決して自明のものだと思わず、常に高い視座に立って柔軟な思考で「今やっているこの仕事の意味は一体何なのだろうか?」と問い続けることで、新たな変化のチャンスをつかむことができると同氏は言います。

カルチャーを醸成するために、デジタライゼーショングループの取り組みを社内ポータル上で積極的に情報発信し、「DXって何か面白そうだぞ!」という雰囲気を盛り上げる工夫も凝らしています。

DataWannalyst

さらには、このようなカルチャーを象徴する用語として、社内ではデータサイエンティストのことを「データワナリスト」と呼称しています。

鈴木 英樹 氏 鈴木 氏

データ分析の仕事を「やらなければいけない」から「ぜひやりたい」へ変えたいと思っています。
「データワナリスト(Data Wannalyst)」とは、データ分析を他人ごとではなく自分ごととして推進する人材の造語で、このデータワナリストを増やしたいと考えています。

DXやデータサイエンスの“型”を伝授する


データワナリストを社内で育成するためには、実際にデータ分析を社員に体験してもらい、実務上の成果を実感してもらうのが最も近道です。そこで2020年7月、「データラボラトリー」という社内研修制度を立ち上げました。これは社員が普段の業務で抱えている課題を題材に、他の参加者とグループを組んでデータ分析による課題解決に取り組むというものです。

この取り組みは大変好評を博し、2022年3月時点で144名の社員が参加しています。参加者はそれぞれが研修で得た知見を現場に持ち帰り、実際の改善活動に日々生かして成果を上げています。日本郵船本体だけでなく、グループ会社からの参加も多く、研修の成果を自社に持ち帰って新たな改善活動に結び付けながら、徐々にグループ全体にその効果が波及しつつあると言います。

Blackboard

このように研修などの場を通じて現場社員にデータ分析のスキルトランスファーを実施するにあたり、鈴木氏が重視しているのは「型」の伝授だと言います。

鈴木 英樹 氏 鈴木 氏

DXやデータサイエンスには型があります。
課題設定がなによりも重要なので、まずは「問いを立てる型」を覚えてもらっています。
型を守り、的確な問いを立てる。これができていれば、解決方法は自由に考えてもらって問題ありません。

また業務の改善は、いきなりデジタルに頼るのではなく、まずは既存業務の無駄を省いて省力化できる余地を探るよう勧めています。当初から「デジタルありき」で進める改善活動は、多くの場合失敗に終わる可能性が高いと同氏は言います。

若手社員から業務部門にデジタル活用をアプローチ


鈴木氏は、取り組みを通じて育ったデジタル人材が、「やがては会社全体をハックして、イノベーションをリードしていってもらいたい」と抱負を述べます。既に人材育成の成果は着実に表れており、新たなデジタル施策の事例を紹介するポータルサイトを公開したり、若手社員が自ら様々な部署にアプローチして、デジタル技術を活用した業務課題解決を支援する取り組みを進めています。

こうした活動を通じて、既に200件以上の業務改善やデータ活用推進の案件が持ち上がっており、いまでは業務現場側から相談が寄せられるほどまでに社内でDXの気運が高まってきました。

さらに、活動の前線に立つ若手社員に対して「“必殺仕事人”と“目利き師集団”を目指すべし」とアドバイスしていると言います。

NewWorkStyle

鈴木 英樹 氏 鈴木 氏

具体的には5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の徹底と3M(無理、無駄、ムラ)の撲滅を目指して、
「止める」「やり方を変える」「誰かに任せる」「自動化」という順番で解決策を検討するよう伝えています。加えて、便利なツールを使いながらアジャイルなプロセスで「とにかく楽して働こう」という方針も掲げています。

他の企業・組織では「トップのリーダーシップや理解が足りないのでDXがなかなか進まない」という声が聞かれることもありますが、同氏は「それは言い訳にすぎない」と断言します。

鈴木 英樹 氏 鈴木 氏

トップのリーダーシップに頼るばかりで社員のモチベーションが低いままでは、社員がDXや変革を“自分ごと”として捉えられないため、結局は活動が長続きしません。
そうではなく、社員一人一人の中に潜在的に眠っているリーダーシップや好奇心、モチベーションといったものを呼び覚まして、いかに企業全体の取り組みへと広げていけるかが重要だと思います。

自社だけでなくグループ全体にDXの価値を伝播


活動成果の一つに、グループ会社であるNYKバルク・プロジェクト株式会社との共同プロジェクトがあります。日本郵船本体が進めるDXの取り組みに強く共感したNYKバルク・プロジェクトの社長が自らリーダーシップを発揮し、社内にプロジェクト推進事務局を設置。両社でDXを強力に推進しています。

社長以下、社員ほぼ全員が参加するワークショップを開催し、わずか4ヵ月の間で104件もの業務課題を一気に抽出・見える化しました。その中から9件の課題を選び出して、改善プロジェクトを共同で進めているところです。

WorkShop

                                     ※クリックすると拡大します

また日本郵船のシステム子会社である株式会社NYK Business Systemsと、物流関連の業務を担うグループ会社である郵船ロジスティクス株式会社を交えた3社でのコラボレーション研修も実施しました。潜在的な顧客ニーズをつかみ、それに対してクイックに応えるための手法「デザイン思考」をテーマに合同研修を行ったところ、思わぬ成果が得られたと鈴木氏は話します。

鈴木 英樹 氏 鈴木 氏

営業系の会社である郵船ロジスティクスとシステム系の会社であるNYK Business Systemsは、企業文化が大きく異なりますが、研修を通じてリスペクトし合い、いい化学反応を起こすことができました。
今後DXを推進していくためには、ビジネス部門とシステム部門とが互いに理解を深めながらチームビルディングしていくことが大切ですから、今回の取り組みは非常にいいテストケースになったと思います。

このコラボレーションにより、「ビジネス・システム・運用保守の3社が連携を強め、ビジネスを推進するBizDevOps実践のヒントを得た」という鈴木氏。日本郵船のDX挑戦は、これからも続きます。

(本稿は、アシスト主催で2022年4月に開催した「DX実践事例セミナー」のセッションを基にした記事です。)




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